大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)11749号 判決

原告 昭和リース株式会社

右代表者代表取締役 大八木秀年

右訴訟代理人弁護士 定塚道雄

同 定塚脩

同 定塚英一

原告補助参加人 株式会社オービツク

右代表者代表取締役 野田順弘

右訴訟代理人弁護士 坂和章平

被告 永興印刷株式会社

右代表者代表取締役 竹内秀和

被告 竹内準

右被告両名訴訟代理人弁護士 鈴木一郎

同 錦織淳

主文

被告らは、各自原告に対し、七九九万円及びこれに対する昭和五四年四月二日から支払済みに至るまで年一八パーセントの割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告及び補助参加人

1. 主文同旨

2. 仮執行宣言

二、被告両名

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(原告及び原告補助参加人)

1. 原告は、昭和五三年四月二四日、ユーザー被告永興印刷株式会社(代表取締役竹内準、以下「被告会社」という。)との間で、訴外キャノン株式会社製造にかかるオフィスコンピューター「キャノナック七五〇モデル四型」一式(以下「本件コンピューター」という。)について、次の約定で賃貸する旨のリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

(一) 期間 六〇か月

(二) リース料総額 一〇二〇万円

(三) 毎月のリース料 一七万円、賃貸開始後毎月一日払

(三) 被告会社が契約違反や支払停止をしたときには、原告からの通知、催告を要さずに被告会社は期限の利益を喪失し、残存リース料を直ちに支払う。

(四) 毎月のリース料の支払遅延の場合の遅延損害金は年一八パーセントとする。

(五) 原告は前払リース料として五一万円の支払を受け、原則としてこれを最後の二か月分のリース料に充当することとするが、これを原告の被告会社に対する債権の弁済に充当することもできるものとする。

2. 被告会社の当時の代表取締役であった被告竹内準(以下「被告竹内」という。)は、右同日原告との間で、被告会社の原告に対する本件リース契約に基づく右債務について連帯保証契約を締結した。

3. 被告会社は前払リース料五一万円を原告に支払い、原告は、昭和五三年五月二一日被告会社に本件コンピューターを引き渡し、同日より本件リースが開始された。

4. 被告会社は、昭和五三年六月一日から同五四年三月一日まで一〇回分のリース料の支払をしたが、同年四月一日に支払うべき分以降のリース料を支払わないので、期限の利益を喪失し、残存リース料八五〇万円について弁済期が到来した。

原告は、被告会社から前払リースとして支払を受けた五一万円を、未払残存リース料債権の一部の弁済に充当したので、残存リース料債権は七九九万円となった。

5. よって、原告は被告両名に対し、各自右残存リース料債権七九九万円及びこれに対する弁済期の後の日である昭和五四年四月二日から支払済みに至るまで年一八パーセントの約定利率による遅延損害金の支払を求める。

三、請求原因に対する認否

1. 請求原因1、2の事実は認める。同3のうち、原告からその主張の頃被告会社に本件コンピューターが引き渡されたことは認め、その余は争う。同4のうち、被告会社が原告に対し、その主張の頃一七万円を一〇回支払ったこと、その後の支払をしないまま昭和五四年四月一日が経過したことは認め、その余は争う。

四、抗弁

1. 原告、補助参加人と被告会社との間で、昭和五三年五月一二日、本件リース契約について、リース目的物件を本件コンピューター(キャノナック七五〇モデル四型)からニユーキャノナック七五〇(以下「新機種」という。)に変更する旨の更改契約が成立した(以下「本件更改契約」という。)。

2. 本件更改契約は次の経緯により締結された。即ち、本件リース契約は、コンピューターの販売会社である補助参加人の紹介により原告と被告会社間で締結されたところ、右本件リース契約締結の際、原告及び補助参加人の各担当者は、被告会社代表取締役竹内準に対し、本件コンピューターであるキャノナック七五〇モデル四型が最新鋭の機種である旨説明してその購入をすすめていたのに、昭和五三年五月一二日には新機種がリース料月額一三万円で発売される旨の新聞広告が出た。これを知った被告竹内は直ちに原告及び補助参加人の担当者と会い、両者に対し話が違う旨抗議し、リース物件の変更を申し入れたところ、両者はリース料を変更しないことを条件にリース物件の変更に同意し、被告竹内もこれを了承した。そして、新機種の納入期は、補助参加人がこれを取得するのに期間が必要であることから、昭和五三年七月とすることとなった。しかし、原告及び補助参加人の担当者は新機種を納入するまでの間、暫定的に本件リース契約のとおりに本件コンピューター(キャノナック七五〇モデル四型一式)を納入させてほしい旨懇願した。これに対し、被告竹内としても、初めてコンピューターを導入した場合に社員の訓練等のため一か月程度の準備期間を要するところ本件コンピューターと新機種とが同系列の機種であるから、本件コンピューターを暫定的に使用していても新機種使用の準備・訓練にある程度役立つとの説明を受けたので、右懇願を受け入れ、これに基づき本件コンピューターが納入され、被告会社がリース料の支払を開始するに至ったものである。

3. 以上のような経緯により成立した本件更改契約についてはその契約締結の際には新たに契約書を作成することをせず、本件リース契約において昭和五三年八月一日以降に支払うべきものと約されているリース料をもって新機種のリースに対する対価とするものと約された。

4. ところが、原告及び補助参加人は、昭和五三年八月に至っても、被告会社の再三の催促にもかかわらず、新機種を納入せず、機種の交換に応じようとしなかった。

5. そこで、被告会社は、リース物件の賃貸人原告が本件更改契約に基づくリース物件たる新機種を賃借人被告会社に対して引渡し使用させるべき義務を履行しなかったので、やむなくリース料の支払を停止した。

6. なお、被告会社は、本件リース物件についてリース料を支払っていた間は本来の契約目的である会社業務の管理運営には使用できなかったものの、新機種導入のため、社員の訓練等に使用していたところ、前記被告会社のリース料支払停止により補助参加人のメンテナンスを受けられなくなったため、使用不能に陥り、従業員の訓練のためにさえも使用不能の状態となった。

五、抗弁に対する認否と主張

(原告及び補助参加人)

1. 認否

抗弁1の事実は否認する。同2のうち、補助参加人が昭和五三年五月一三日頃、被告竹内からリース物件を新機種に交換してほしい旨の希望を聞いたこと、補助参加人がこれについて検討する旨の返答をしたことは認め、その余は否認する。同3及び4の事実は否認ないし争う。

2. 原告及び補助参加人の主張

(一) 原告

(1) リース目的物件の性能・品質の不良・瑕疵とファイナンス・リース契約の効力について

イ 一般的にファイナンス・リース契約は、目的物件を使用収益したいという希望者(ユーザー)が、その物件の製造業者または販売業者(サプライヤー)との間で、物件の種類、品質、機能、納期、保守修理等の諸項目の全てを決定したうえ、リース会社にリース契約締結を要請する。リース会社は、右のようにユーザーとサプライヤーとの間で決定された内容に従って、サプライヤーから目的物件を買い受け、サプライヤーに対して代金全額を支払い、ユーザーに目的物件を引渡して(実際にはサプライヤーから直接ユーザーに引渡される)使用収益させ、ユーザーからリース料(即ち、毎月のリース料額は、サプライヤーからの買受価額に、金利及び諸経費並びに手数料を加えた金額から、リース期間終了時の物件残存予想価額を差し引いた金額を「リース料総額」とし、そのリース料総額をリース期間の月数で割った金額とされる。)の支払をうける。

ロ 右のようなリース契約は次のような特徴をもっている。即ち、①目的物件の種類、品質、機能、保守修理などについては、サプライヤーとユーザーとの間で決定するので、リース会社は目的物件の瑕疵や性能等について全く責任を負わず、目的物件の修理・維持などの責をも負わない。②このようなリース契約を経済的にみると、本来ユーザーがサプライヤーから目的物件を買い受けるとしたら必要であった筈の資金を、リース会社がその負担でサプライヤーに支払い、ユーザーから受けるリース料でその資金を回収する、という金融的性質を有する。従って、ユーザー側からはリース期間中リース契約を解約する権利がない。

(2) 本件リース契約成立に至るまでの過程でリース会社である原告が関与した部分について

イ 昭和五三年四月に補助参加人から原告に対して、被告会社がニューキャノナックのリースを希望している旨の紹介があった。原告会社は、協和銀行の系列のリース会社であるところ、被告会社は協和銀行大阪京橋支店を主力取引銀行としていたので、信用状態の調査が容易であり、原告はそのリースを引き受けることとなり、原告大阪支店の三木宏を課長とする営業課に担当させることとした。そこで、営業課員石飛仁が、補助参加人の担当者から被告竹内準氏を紹介され、補助参加人からの事前のデータにもとづいて作成したリース見積書を持参してこれを竹内氏に渡すとともに、リース契約の内容を説明し、昭和五三年四月二四日竹内氏は石飛の説明を了承してリース契約書(甲第一号証)に記名捺印して、石飛に交付した。

ロ 次いで、昭和五三年五月二〇日頃、補助参加人から原告に対し、目的物件を被告会社へ納入する旨の連絡があり、同月二一日石飛が補助参加人担当者とともに被告会社へ行き、被告竹内氏は、目的物件の据付を確認し検査をした上で、物件借受証(甲第二号証)に記名捺印して石飛に交付した。なお、石飛も三木課長も事務系のいわゆる営業マンであって、コンピューターなどの機械類の構造や操作などについては殆んど無知識であるので、客先との間で目的物件の性能とか機種の選択等を話題とすることは全くできない。

ハ これらの点は、リース契約締結前に、被告らとの間で充分協議し検討せられてしまったうえで、リース契約締結に至ったものである。被告会社は、原告に対して物件借受証を交付した後、昭和五四年三月まで順調にリース料の支払を行っていた。昭和五四年四月分から突如被告会社がリース料の支払をしなくなったので、原告会社三木課長が、同年五月頃から再三支払の催促をしたところ、被告会社側は、補助参加人が約束を守ってくれないからリース料を支払えない、というので、三木は、被告らと補助参加人との間の紛争は、リース料不払の理由にならないものであることを説明したが、被告側は全く耳をかさない状況であった。そこで、原告は補助参加人にただしたところ、はじめて、被告会社と補助参加人との間の後記(二)(2)記載のような機種交換についての紛争が生じていることが分った。

ニ なお、補助参加人は、被告側から新しい機種に取り換えろと無理難題をいわれて困っているが何とか円満解決しようと努力している、とのことであった。しかし、補助参加人は被告会社と種々協議し、昭和五五年七、八月頃には、甲三号証、甲四号証、甲五号証に示されるような具体的な詰めの段階に入り、さらに翌昭和五六年八月には、甲六号証により被告会社から別機種の注文を受けるまでに至ったが、結果として、後記(二)(2)記載の経過をたどり、結局解決に至らなかった。

(3) 後記(二)(1)、(2)の補助参加人の主張と同様の主張

(4) なお、原告は、被告会社がリース料の支払を停止し、かつ補助参加人と原告との話合いが解決をみない状況の下でありながら、かかる紛争の相手方たる被告会社との間で昭和五六年九月二三日付けでローランド社製オフセット印刷機ROLAND、RZK―三、一台につきリース契約を締結したが、右契約を締結した理由は、協和銀行の系列会社である原告は、その頃、被告会社の主力銀行でもある協和銀行より、被告会社に実質上の金銭貸付けの効果をもたらずリースバックをしてやってほしい旨要請されこれに応じることにより本件リース料の未払問題にもよい影響を与えるであろうと信じて乙第一五号証の一のリース契約をするに至ったものである。

(二) 補助参加人

(1) オフイス・コンピューター取引の一般的常識について

イ オフイス・コンピューターは、日々長足の進歩・発展をとげているものであり、最先端の技術競争の結果、「昨日の新製品が今日は旧製品」とか、「昨日まで一〇〇万円のものが今日は五〇万円」という具合に次々と安価で高性能な新製品が開発され、販売されていることは、周知の事実である。

ロ このような日々の技術革新と、販売競争の中で、メーカー、ディーラー、ユーザー、更にリース会社等が、各種機器について、①どの時期に、②どの程度の物件を、③どの程度の金額で、④どのような方法で(買取りかリースか)、利用しようかを検討し、交渉し、選択(決断)をしているのが実情である。

従って、右の選択(決断)をした後にメーカーから新性能の低価格の商品が発表されたとしても、それは一つの選択のうえなした商取引の結果として、やむをえないものである。メーカーとしても、新製品の発表の時期、方法等については、十二分な市場調査をして、最も効果的に発表するのが通例であり、それらは秘密裡に進行するのが通例である。

ハ 補助参加人は、このようなオフイス・コンピューターの販売を業とする会社であって、ユーザーに対して、その時期、その時期における商品の性能を最大限に売り込み、価格を交渉し、商談をまとめることによって利潤を生み出すのであるから、その営業交渉の中では取引通念上、許容される範囲の「かけひき」がなされるのは当然であり、その「かけひき」の中で、最終的にユーザーが自己の判断で選択をすることになる。

ニ 被告らの主張は、オフイス・コンピューター取引についての、これらの周知の事実をあえて無視し、被告らの都合だけで新性能、低価格のものが出れば、旧製品をそれら新製品と交換するのが、さも当然であるかの如き考え方に起因するものであり、商取引の実態を無視した主張である。

(2) 被告会社からの新機種変更の要望とこれに対する補助参加人の応接について

イ 補助参加人は、リース契約締結後の昭和五三年五月一三日頃、被告会社の代表取締役である被告竹内より、新機種に交換して欲しい旨の要請をうけた。そして、このような場合、販売会社たる補助参加人としては、このようなユーザーの無理難題とも思える要請に対しても、出来る限りソフトに受けとめ、「検討できるものがあれば、検討してみる」旨の応対を示すことは当然であり、一言の下に「それはできません」とは回答せず、一応「検討してみる」と回答した。

しかし、右のような対応は、何らユーザーたる被告らの要求を了承したものではなく、「新機種への変更に伴うリース料金をはじめとする、すべての条件が、関係者で合意できるならば、変更は可能である」との、ごく当たり前のことを内容とする対応であることは、容易に理解されるところである。

そしてその後、右についてはその条件について、具体的な話の進展をみないまま進行し、被告会社は昭和五四年四月以降、一方的にリース料の支払をストップするに至ったのである。

ロ なお、補助参加人は、被告会社のリース料支払停止後も右支払を説得するとともに、被告らの機種交換の要望に応じるべく話合を続け、右支払停止後約一年経過した①昭和五五年七月には三菱製MELCOM八〇シリーズ日本語の販売、リース契約に関し被告会社からの要望をうけ、原告にも同年九月中には結論を出す旨報告して話合を続けたが、結局右契約は双方の条件が折り合わず、成立するに至らなかった。②その後更に一年経過した昭和五六年八月には被告会社から前記三菱MELCOM八〇シリーズ日本語の注文があったので、右注文についても新たなリース会社として日本リース宛に依頼を出し検討をつづけ、被告会社申入れの条件でリース契約が締結される寸前まで話が進展したが、契約締結寸前になって、被告会社から近く発売の噂のある三菱電機製の三二ビットの新製品が発売されたときは右製品との交換を条件とする旨の要求があり補助参加人がこれを断ったところ、結局、右リース契約も締結に至らなかった。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求原因について

1. 請求原因中、1(本件リース契約の成立)、2(連帯保証契約の成立)の各事実、同3の事実のうち、原告がその主張の頃に被告会社に本件コンピューターを引き渡したこと、同4のうち、被告会社が原告に対し、原告主張の各日に各月一七万円宛て一〇回分合計一七〇万円を支払ったが、昭和五四年四月一日支払分以降のリース料を支払っていないことは当事者間に争いがない。

2. 〈証拠〉によれば、本件コンピューターが被告会社に引き渡された昭和五三年五月二一日に同日を借受日として本件リース契約が開始されたこと、被告会社は前記リース料の不払により期限の利益を喪失し、残存リース料八五〇万円につき弁済期が到来したこと、被告会社が本件リース契約日に前払リース料として五一万円を原告に支払ったこと、右五一万円については原告が本件未払リース料債権の一部(最後の二か月分)に充当したこと、その結果本件残存リース料債権は七九九万円となったことが認められ、これに反する証人宮田安和の証言部分、被告竹内準本人尋問の結果は前掲証拠に照らしたやすく信用できず、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。

二、抗弁について

1. 被告らは、原告、補助参加人及び被告会社間で、昭和五三年五月一二日に本件更改契約が成立したのに、原告が交換されるべきリース物件たる新機種を納入しないためにリース料の支払を拒絶した旨主張するので、以下この点につき判断する。

〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告会社では、昭和五三年二月頃社内の事務運営の合理化をはかるべくオフイスコンピューターの導入を決めていたところ、その頃コンピューターの販売会社である補助参加人からダイレクトメールが送られてきたので、被告会社代表取締役である被告竹内準が補助参加人(大阪支店、以下同様)に赴き、補助参加人の藤原部長及び中島担当社員と面接し、実際に商品を見たうえ、当時キャノン製では最新機種であったキャノナック七五〇モデル四型一式を被告会社に導入することに決め、その旨補助参加人に注文し、補助参加人はリース会社である原告に被告会社を紹介し、もって同年四月二四日に正式に原告との本件リース契約を締結するに至った(本件契約の成立とその年月日は争いがない事実)。

(二)  ところが、本件リース契約締結後約二〇日後の昭和五三年五月一二日には、同日付の日本経済新聞の紙面に本件コンピューターと同じキャノン製の「ニューキャノナック七五〇」が新発売される旨大々的な広告がでた。同日朝、新聞広告を見た被告竹内は、直ちに補助参加人の藤原部長やその他三木課長、石飛担当社員等に文句を言い、リース物件を右新機種と交換してほしい旨要望した。これに対し、補助参加人側は、検討してみる旨の応答をした。しかし、右被告会社の要望については、その後両者間で具体的な話合いが進展しなかった。このような状況のもとで被告会社は以降のリース料の支払をしなくなった(上記リース料の不払については争いがない。)。

(三)  右のように被告会社がリース料の支払を停止したのち、販売元の補助参加人としては原告にリース料の支払をするよう被告会社を説得するとともに事態の解決のため再び、被告会社の要望に沿うべく機種の交換の話合をすすめるようになった。

そして、昭和五五年七月頃、原告と被告会社間で、交換機種を三菱電機製メルコム八〇日本語(一式)にすることで話し合われ同月七日付けで補助参加人から被告会社宛てに左記提案を記した書面が送付された。

①  本件コンピューター(キャノナック七五〇)の保留リース料金は全額リース会社と決済する。

②  メルコム八〇シリーズ日本語が完成され次第、被告会社に納品し、その時点で本件リース契約を一括解約し、解約違約金は、新機種の製造元である三菱電機と販売元補助参加人とで負担する。

③  新機種の月額リース料を二二万五〇〇〇円とする(期間五年、六〇回)。

そして、右提案書は補助参加人から被告会社に送付され、被告会社、被告竹内が見て検討するところとなった。

一方前同日付けで補助参加人の藤原部長は、原告宛てに補助参加人は被告会社に対して過去数か月間にわたり滞納されているリース料の一括完済を説得してきたが確答を受けられなかったこと、しかし本日付けで前記提案書を被告会社に送付したので、被告会社が右提案条件を検討して方針をたてない旨の意思を示しているので、両者間では早期解決をしたい意向である旨記載した書面を送付した。

ところが右補助参加人の提案条件も被告会社には容れられず、結局両者間ではこの話合による取引も成立するに至らなかった。

(四)  ところが、その後約一年経過した昭和五六年八月になってから被告会社から補助参加人に対して、三菱電機製メルコム八〇シリーズ日本語について、左記条件が記載された同月二三日付けの「注文書」用紙を用いた書面が送付された。同書面には、大略①リース物件として、「三菱小形電算機メルコム八〇シリーズ日本語」、②月額リース料として、「約一八万五〇〇〇円」、③支払条件として「五年リース」、④納期として「昭和五六年一二月吉日」と記載されていた。

そこで補助参加人の藤原部長は原告会社宛てに新機種決定と同時に現在までの滞納リース料の支払につき九月中に結論がでる予定である旨記載した同月三〇日付書面を送付するとともに、九月二一日付けで前記被告会社の注文書記載の条件を記載し、かつ、右新機種の納入日を一一月の予定として、訴外日本リースに対してユーザーとして被告会社を紹介する旨の書面を送り、同訴外会社と被告会社間のリース契約を成立させるべく検討を続けた。

しかし、右リース契約も被告会社の承諾を得られず結局これもその締結には至らなかった。

(五)  更にその後、本件訴訟係属に至ったのちの昭和六〇年四月になってからも、補助参加人と被告会社間では右和解手続続行中に訴訟外で、新機種購入リースの話合がされ、補助参加人から三菱電機製の「メルコム八〇システム一〇による概算見積書」が被告会社宛てに提出されたが、右見積書には、①ハードウエア、ソフトウエアアプリケーション費用合計一一九六万円(リース期間六年、月額二一万一六〇〇円)と記載され、右記載条件につき両社間で話し合われたが、結局リース料の値段が折り合わずこの話合による取引も成立しなかった(同年四月より続行されていた本件訴訟における和解手続も同年九月一一日の期日をもって打ち切られたことは記録上明らかである。)。

(六)  以上のような補助参加人と被告会社との新機種交換に関する話合いは相当期間にわたり、かつその回数も重ねられたが、その間リース会社である原告側は、昭和五四年四月にリース料の支払が停止された直後三木課長及び担当社員らが被告会社に右支払の催促に赴いて、初めてリース物件交換に関する紛争が生じていることを知り、その後は、補助参加人から逐次両者間の話合いの経過につき報告を受けリース料支払停止状態が打開されるのを待っていた。

(七)  もっとも、原告は、補助参加人と被告会社との間の話合がつかず、リース料の支払を停止されているにもかかわらず、昭和五六年九月二一日付けで、被告会社との間でローランド社製のオフセット印刷機ROLAND RZK―三(一台)につき、リース契約を締結したが、これは本件コンピューター並びに新機種とは全く異なる機械につき、双方の取引銀行である協和銀行の依頼により被告会社から右機械を原告が買上げたうえ再リースに出す、いわゆるリースバック形式でその実質は被告会社に対する金員貸付けの効果を与えるものであったが、原告としてはこれにより紛争中の本件リース契約の事態解決に役立つことを期待して右契約に応じたものであったというのであるが結局その効を奏さなかったものである。

以上の事実が認められ、右認定に反する被告竹内準本人尋問の結果部分及び証人宮田安和の証言部分は前掲各証拠に照らしたやすく措信できない。

2. 以上の事実に弁論の全趣旨を併わせみると、要するに、本件リース契約締結後間もなく、同じ製造元キャノンから新製品が発売されたことに起因して、右事実を予期しえなかった被告会社と販売会社補助参加人との間でリース物件に関する紛争が生じ、被告会社からのリース物件の交換の要望に対してその実現が通常容易でないことを知っているはずの販売元である補助参加人としては、当惑しながらも顧客の便宜のためまたリース会社に対するリース料の支払が円滑にされるために一応前向きで検討するとの態度を示し、度重なる条件呈示による話合いに奔走しながらも結局いずれも被告会社の受け容れるところとならず話合いは全て不成功に終ったことが認められるのであって、このような補助参加人の対応があったとしても前示の被告竹内の抗議にはじまる話合等の経緯とその内容に照らせば、右抗議の時点はもとよりその後の話合のいずれの段階においても被告ら主張のような特定の新機種との交換及びその条件につき合意が成立したとは未だ認めるに足りず、ましてリース会社たる原告が右話合に参加したとは到底認めることができない。

3. 本件コンピューターのリース契約直後に新機種の発売が発表されたことは被告会社にとって予期しえない不運であったかもしれないが、そもそも被告会社が本件リース契約を締結する前にはもとより前示のとおり被告会社の代表取締役自身が補助参加人の社屋に赴いて本件コンピューターを現認してその導入を決定しているのであるからリース会社たる原告としては右選択決定された機種につき販売元たる補助参加人から買受けたうえユーザーたる被告会社に貸し渡すことにより専らリース料の支払を受けることにより出費の回収と収益をはかるしかないのである。近年の日本国においては本件コンピューターのようなオフィスコンピューターの発展とその激烈な競走はめざましいものがあり、何時、どのメーカーからどのような新機種の完成、発売が発表されるかはそれが各メーカーの秘密裡に行われるために使用する一般顧客はもとより専門の販売会社ですら把握することが至難な状況にあることは公知の事実である。このような状況のもとでは個々のユーザーが適時に、注意深く調査、検討したうえ使用目的に合致した機種を決定すべきであり、またユーザーとの間でリース契約を締結するリース会社としては、本件リース契約のような場合には右ユーザーの決定した特定機種を買受けてこれをユーザーに賃貸するのであるから、かかる行為が完了した段階になって新機種が新発売されることになったとしても、ユーザーが右リース物件として決定した機種を新発売される新機種と交換することを要求し、これを販売元なりリース会社が受け容れなければならない特段の事情もないのに逐次右要求に応じなければならないということになれば、この種業界の取引が極度の混乱状態に陥る虞れがある。そして、本件においては、右特段の事情があるとは証拠上認め難い(なお、被告の機種交換の要求に対して補助参加人のとった態度は真摯かつ柔軟なものであり、相当期間をかけても事態の解決をはかろうと努力をしたことは窺えるのであるが、結局このような応対が顧客被告会社の諸々の要望を募らせることにもなって、事態の究極の解決をはかることにはならなかったのであり、また原告主張の前示原告と被告会社とのその後のリース契約にしても同様のことがいえるのである。)。

4. 以上の次第であるから、被告らの抗弁はその余の点を判断するまでもなく失当であり、採用の限りではない。

三、よって、本件リース契約に基づき、主債務者被告会社及び連帯保証人被告竹内に対して、各自、本件リース料の未払分残額七九九万円及びこれに対する約定遅延損害金(弁済期到来の翌日である昭和五四年四月二日から支払済みに至るまで年一八パーセントの割合による金員)の支払を求める原告の本訴請求は、いずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤瑩子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例